人によるサービスには限度がない販売とは、―物と金との交換ではない。人と人との交渉であり、心と心のふれ合いである。

商品に必ず真心のこもった親切を添えてこそ、販売の心と言える。

私は東京のMデパートの『まごころと共に』の内容に大変感銘を受けた。これこそ、正に販売の原点であると言えるからである。内容を列記させていただく。

「商店とは、お客様に希望と幸福をお与えする場所である。それは物によるサービスと、人によるサービスによってである。

物によるサービスとは、豪華な建物、行き届いた設備、豊富な商品、適正な価格である。

人によるサービスとは、数あるデパートの中から、わざわざMにお越し下さるお客様にMでのお買物の喜びや楽しさ、お買物のご満足を商品に添えて差し上げる販売員の真心である。

物によるサービスには限度があるが、人によるサービスには限度がない。

M店の信用、M店のマーク、M店の伝統そしてその繁栄を築くものは、販売員一人ひとりのその真心である。」

ここに引用されているMデパートとは三越のことです。昭和三十年代初め、初代理事長は、三越の新入社員教育について担当重役の方から話を伺ったそうです。その当時、日本の代表的小売業といえば百貨店で、その代表といえば東京では三越といった時代です。「社員教育は店ごとに行いますが、一番大切な三越の“正義”は、共通して伝えなければならない。」この考えから作成したのが、『まごころと共に』のタイトルの前述のオートスライドだったそうです。大変な感動を覚え、「数あるデパートの中から」のくだりを「数ある小売店の中からわざわざ我が店へ」と言い換えれば、お客様へ自然と感謝の「いらっしゃいませ」が笑顔で言えるはずと思えるようになった、と記しています。

老舗といわれる店では、家訓等の商業道徳が大切に守られて伝統を築いてきた、と聞きます。そのことが従業員のプライドにも成り得たと思います。しかし、高度経済成長があまりにも急速すぎたためか、商業道徳も揺らいでしまい、その後、三越でもトップ自らが不祥事を起こしてしまったことは周知の通りです。人によるサービスには限度がない―単なるスローガンとしてではなく、全従業員が本当にそう思って実践できれば素晴らしい事だと思います。

1998年5月